漸く店内まで入る事ができたあたしは、もう少し近くなった厨房を眺める。
でも、氷メガネに似たイケメンは確認できなかった。

やっぱこの店じゃないかもしれない…。

そう思った時、厨房の中から一人のパティシエが焼きあがったケーキをのせたトレイを持って出てきた。

氷メガネより少し背が高くて、顔は氷メガネを少し柔らかくしたような…
とにかく彼もイケメンだった。
その人の姿を見た瞬間、あたしの腕を弱々しく掴んでいた氷メガネがその力を強くした。

驚いて氷メガネを見上げると真剣な顔でその人を見つめている。

やっぱり…
やっぱりこの人なの?

見上げるあたしに気づいた氷メガネが小さく頷いた。

やっぱり、この人がお兄さん…。
言われる通りのイケメンだわ…

じゃなくて!
どーすんのさ?
声かける?

あたしがハラハラしていると、ケーキを並べ終えてお兄さんが厨房に戻ろうとしている。
そのお兄さんの背中に向かって氷メガネは一言叫んだ。

「兄貴…!」

店内の客が驚いて氷メガネを振り返る。
お兄さんは氷メガネの声に一瞬肩をビクッとさせたが、そのまま振り向かずに厨房に消えて行った。

嘘…
なんで?

やっぱり…
会いたくないの…?