駅へ続く横断歩道で信号待ちをしていると、背後から強く腕をつかまれた。

もう何回も繰り返される同じようなシチュエーションにあたしは慣れっこになっているから、さほど驚く事もない。
優雅に振り返り一言放った。

「そんなに慌てて、どーしたのよ?」

あまりに冷静なあたしに氷メガネの方がビビってる。

「な、なんだよ…。えらく落着き払ってんな」

「そーお?いつもとおんなじだけど?」

氷メガネは、「よく言うよ…」と少し呆れながらも、あたしの腕を今度は優しく掴んでホテルの方へと引っ張って行った。

「車で行く。一緒に」

そう言った氷メガネの顔は、走ったせいなのか照れているのか、少し赤かった。

道路は相変わらずの渋滞。
田舎の道じゃ考えられないけど、ただ車の数が多いってだけでこの自然な渋滞ができるんだと聞いた時は、ほんとにビビった。

あたしの地元で渋滞になる時といえば、事故があったか、法定速度より相当ゆっくりと走っているお年寄りの軽トラがいる時くらいだもんね。

でも渋滞がある程度落着き始めても氷メガネはスピードをあげようとはしない。
安全運転かと思ったけど…
コイツの日頃の運転を見ているあたしには、そうは思えなかった。

きっとまだ…
迷いがある…。