氷メガネの車に乗り込む。

エンジンをかけた後、なかなか発進させない氷メガネを心配してあたしは声をかけた。

「大丈夫?すぐ…行くの?」

まだ決めかねているのか氷メガネは黙ったままだ。

「ごめんね。急かすつもりはないの。無理する事、ないから…」

あたしが優しくそう言うと、いきなり氷メガネは車を発進させた。
驚いたあたしの体はシートベルトをしているのに一瞬グラリとなる。

「もうっ!急発進して、危ないじゃないの!」

怒るあたしの事など全く意に介さず、氷メガネはシレッとしている。

「尚美…。今日もいつものホテル?」

…え?
何よ、謝りもしないでいきなり。

「そーよ。それが何?」

あたしは不満を顔にも言い方にもあらわして、そう言った。

「リョーカイ。じゃ、今から直行する」

「え?いいわよ、荷物は大した事ないし、直接お店に行っても…」

あたしがそう言いかけると、氷メガネは運転しながら片手だけ伸ばしてあたしの髪をなでた。

「勇気…ないんだ、俺…。こう見えて、意外とヘタレだからさ。ちょっと尚美に勇気もらいたいな…」

まーったく、アンタは!
どーしてそう、あたしのツボをいちいち刺激するのかなー?