車のトランクに無理やり荷物を詰め込んで、氷メガネは再び運転席に乗った。
あたしは助手席のドアの前でただ立ち尽くしていた。
パワーウィンドウを開けた氷メガネがあたしを呼んだ。

「尚美、何してる?早く乗れ」

『来い』『行くぞ』『乗れ』

コイツが言うセリフは…
命令ばっかじゃないよ…。

いくらドMのあたしでも…
もうちょっと…優しくしてほしい時だってあるんだから…。

何もしゃべらずそこから微動だにしないあたしを氷メガネも不審に思ったのか、運転席から出てあたしのそばにやってきた。

「お前…どーしたんだよ…?ほんとにおかしいぞ、何かあったのか?」

心配そうな顔で目線をあたしと同じ高さまで合わせて覗き込む。
その顔を見ただけであたしはガマンできずに泣いてしまった。

「…尚美…?お前具合でも悪いのか…?」

違う…
そんなんじゃ、ない…。

「黙っててもわかんねーだろ?さすがに俺も急にお前が黙っちまうから…ワケわかんねーよ…。何が…気に入らねーんだ?」

俺様なセリフはいつもと同じだけど、声のトーンは限りなく優しかった。
本当にあたしの事を心配してくれている様子が伝わってくる。