それから氷メガネは何もあたしに尋ねる事なく高速にのり、いつものようにスピードをあげる。

ものの十分足らずであたしの家に近い出口を通過して、そこからすぐにアパートに向かう。
ずっと沈黙を保っていた氷メガネが突然言葉を発した。

「家になんか食材あんのか?」

しばらくぶりにしゃべったと思ったらそんな事…

あたしはふてくされたように「多分…」と答えた。

氷メガネはいきなり車を転回させ、来た道とは反対の方向に走り始めた。

あれ?
家に帰るんじゃなかったの?
っていうか、どこ…行くんだろ…?

車は大型スーパーマーケットの駐車場で止まった。

「行くぞ」

「え?」

「早くしろ」

ちょっと…待ってってば…
あたしは晴れない気持ちを引きずったまま、氷メガネに言われる通り車を降りた。
そして足早にスーパーに入って行く氷メガネを小走りに追いかける。
カートにカゴをのせ、次から次と商品を入れて行く氷メガネに驚く。

「ちょっと…何?そんなにたくさん…買うワケ?」

山盛りになったカゴをレジで精算し、そそくさと車に戻る。
その間あたしの歩幅に合わせるような事も…
全然してくれない…。

あたしはどんどん悲しくなってきてしまった…。