「あの…いつ頃フランスへ行かれたかや、お名前もですが、あと年齢とか…。教えて頂ければ、心当たりに聞いてみるくらいの事は、できますが…」

鈴木シェフは氷メガネの兄を想う気持ちに打たれたのか、そんなふうに言ってくれた。

「ほんとですか!それは…助かります…。宜しくお願いします…」

氷メガネは真摯に頭を下げて、自分の連絡先とお兄さんの情報を書いたメモをシェフに渡した。

「確かな情報が得られるかどうかは…はっきり申し上げられませんが…。色々と当たってみますね」

鈴木シェフは優しく微笑みながらそう言ってくれた。
氷メガネも今まで見た事のないような寂しげな、悲しげな表情でお礼を言い続けていた。

帰りの車の中、氷メガネはお兄さんへの想いを馳せているのだろうか口数が少なかった。

もうどのくらい会ってないんだろう…。
あたしもお兄さんの情報は実家に行った時に氷メガネが言ってたのを聞いたくらいしかない。

聞いても…
いいのかな…。

「あの…聞いてもいい?」

あたしは物思いに耽っている様子の氷メガネに聞いてみた。

「ん?何?」

「その…お兄さんの事…。いつ、出て行っちゃったの…?」

「…兄貴が大学卒業間近だったかな…。親父が用意した就職口を兄貴が蹴って。その時親父と大喧嘩して、翌朝にはもう…兄貴は家にいなかったから…。もう十年以上…会ってないな…」