「それにしても、今日の講義、わけわかんないですよね?あたし、もう眠たくて眠たくて…」

祐実に奈津子も同意する。

「なんか、あの人の声が眠くさせてません?催眠術みたいに」

確かに奈津子の言う通り、ヤツの声は抑揚がないから耳に残りにくい。
その上、わざとなのかわからないが、難しい言葉を羅列するから余計に聞きにくいのだ。
祐実と奈津子の話を黙って聞いていると、奈津子が言った。

「尚美さん、あの伊藤内務次長って、尚美さんがいた頃もいたんですか?」

「…うん。そうだよ。前にあたしがいた時も、いた…かな」

「え、じゃあ、前からあんな感じなんですか?」

「そうだね。前からあんな感じだよ。全然変わってない」

奈津子と祐実は、「へぇ~」と言いながらうなずいている。
さらに祐実が尋ねてきた。

「ちなみになんですけど、伊藤内務次長って、結婚されてるんですか?」

あたしは、思わずフッと笑みを漏らしてしまう。

祐実が驚いて、「あたしなんか面白い事言いましたっけ?」と言いながら目を泳がせている。

「ごめん!違うんだって。明らかに結婚してるわけないでしょって感じで聞くからさ。おかしかったんだわ」