でも、富美子が自分は母親失格だと言った時、あたしは黙っていられなくなって口を開いた。

「でも…それが、恋なんじゃない…?」

あたしの言葉にみんなが驚いたように一斉に振り返る。
それでもなお、あたしは言い続ける。

「母親だからとか、ダンナがいるからとか、奥さんがいるからって止められる気持ちなら、それはその程度の気持ちなんだよ。
ダメだってわかってても好きになっちゃうんだよ…。仕方ないよ…。あんまり自分を責めんなって。…なんかあたし、世間の奥様連中を敵にまわしそうだけど」

確かに不倫は絶対ダメだし、誰かを傷つけた上での幸せなんてないと思う。
でも富美子は、だからこそ必死に耐えてた。
それが限界を迎えて離婚になった。
結果的には元ダンナや子供たちを傷つけてしまったのかもしれない。

でももし、心を偽って平気な振りで生活を続けていても。
やっぱりいつか破綻してしまうんじゃないだろうか…。

遅かれ早かれ結果は変わらなかったと思う。

苦しんでいる母親を傍で見ていたら、子供たちだって辛い。
そんなギクシャクした生活を何年も出来る訳ないんだ。

だから…富美子の今の幸せそうな姿を見ると心底ホッとする。
まだ彼と再婚の話にまではなってないみたいだけど。
気持ちが通じ合っただけでも違うよね。
強く…なれるよね…。

あの時…

M市の喫茶店で会った水谷さんの様子がおかしいと思った事は、あながち間違ってなかったんだね。