「最初はね、玉の輿ー!なんて浮かれてたんだけど。結婚してみたら色々制限されちゃって、息が詰まってね!それでも子供が生まれてからはさ、生きがいができて嬉しかったの。でもね、それもすぐに奪われちゃった。姑もやっぱり警察官僚の妻だった人でね。あたしに妻としてやるべきことを叩き込んだの。子育てよりも、ダンナの出世のためにって。だから敏生達が物心ついた時からお弁当を置いてあちこち出掛けてね…」

ここで突如氷メガネが話に割って入ってくる。

「母さん…そしたら、兄貴は…兄貴の事はどーだったんだよ?」

さっきまで明るく話していたお母さんが急に静かになる。

「それだけが…心残りなの…。あたしが弱かったせいで…悠生にも、美緒(みお)さんにも悲しい思いをさせて…」

美緒さん?
ああ…お兄さんのカノジョか…。
今はきっと結婚して奥さんだね?

「フランスに行ってみようと思った事もあったの。でも…フランスに行ったりなんかしたら、主人にはすぐにバレるから…。怖くてできなかったわ。母親失格よ…」

「確かに…俺も今初めて母さんのほんとの姿知ったわけだから、兄貴は全く知らねーまんまって事だよな?恨んだまんまって事だろ?」

お母さんは氷メガネのこの言葉で泣き始めてしまった。