そして玄関を出る寸前。
あたし達の方を振り返り、つぶやくように言った。

「敏生さん…あたしこそありがとう…。尚美さんと…お幸せに…」

思わず顔を上げた時には、もう香菜さんの姿はそこにはなく…。

香菜さんの想いをしっかり受け止めたあたしの目には…
涙が溢れた。

幼い時から大人になった今まで、本当に長い間コイツを想い続けた香菜さん。
あなたの想いを無駄にしないよう…あたしは絶対にコイツを幸せにするから…。

ほんとにほんとに…
ありがとう…。

そう思って見つめた先で、氷メガネは優しく微笑みながら強くうなずいてくれる。
何も言わなくてもあたしとコイツの気持ちは同じなんだ…。

そして優しくあたし達のやりとりを見守ってくれていたお母さんと三人で家を出た。

すっかり漆黒の闇に包まれた空間は、都会の喧騒とは離れて信じられないくらい静かだ。

地元とは比べ物にならないくらい数少ない星。

見上げた夜空に微かに光る星たちは、新しくスタートを切るあたし達にエールを送ってくれているようだった。