ちょっとバツが悪そうに見える氷メガネに、香菜さんが少し寂しそうな笑顔を見せながら言った。

「敏生さん…。悪あがきはここまでにするわ…。もう…解放してあげる…」

「香菜…俺…」

言いかけた氷メガネをとっさに香菜さんが制した。

「謝らないでよ!すっごく惨めになるから!それに…最初っから謝らなきゃならないような事、してない…。あたしの…一方的な片思いだったん…だから…」

言葉に詰まる香菜さんを見ているあたしも、切なくてなんだか息苦しくなった。

そしてとうとう…香菜さんは静かに泣き始めた。
なんとかしてあげたい気持ちに駆られたが…香菜さんの気持ちを考えれば、あたしにだけは慰めて欲しくないはず…。

するとあたしの隣にいた氷メガネが優しい声で香菜さんに言葉をかけた。

「香菜…ありがとう。少なくともお前の存在が…俺と兄貴にとっては救いだったんだ…。冷え切った家庭の辛さを癒してくれたのは、幼いお前の笑顔だったのは間違いなかった。だからほんとに、感謝してる…」

氷メガネがそう言いながら香菜さんに頭を下げる。

その姿を見た香菜さんは、無言ながらも首を横に振って…
そのまま玄関へと向かった。