あのー…
あなたは氷メガネの、お母さんで…
セレブ奥様では…ありませんよね?

あたしは思わず叫んだ。

「あのっ!あたしはホテルに泊まってるんで、大丈夫です!お母さんはコイツん家、行って下さい!」

あたしの発言に一度大きく目を見開いたお母さんは、すぐにニコッと笑って言った。

「ありがと!じゃあ、お言葉に甘えてコイツんとこ行くわ」

お母さんは豪快に笑った後、リビングで唖然としている香菜さんに声をかけた。

「…香菜ちゃん…帰りましょうか…?」

香菜さんは涙を流しながらお母さんに抱き着いた。

「おばさま…、あたし…」

あたしはただならぬ雰囲気に、とても居づらくなってしまい…。
リビングから出た所の廊下でそのまま動けずに二人の様子を見守っていた。

お母さんはとても優しく香菜さんの背中をさすりながらまるで子供をあやすように話し始めた。

「香菜ちゃんには申し訳ないと思うけど…。やっぱりね。恋愛って一方通行じゃどうしようもないと思うのよ。あなたの敏生に対する思いはとてもありがたいんだけど、人間あきらめも肝心よ?ハッキリ言うけど…敏生が尚美さんを嫌いになるなんてことは絶対にない…。こんなあたしでも、あの子の母親だから…、だからわかるの」