「香菜…、それは違うって…」

氷メガネが言いかけると香菜さんがすごい目で睨んでそれを阻んだ。
そしてその鋭い目をすぐに氷メガネからあたしに移して言った。

「聞かせてもらえるかしら?飯田さん…。あなたなら敏生さんを幸せにできる自信があるのでしょ?だから…あたしから敏生さんを奪うのでしょ?」

あたしは…
うまく言えないけど…
香菜さんのためにも、思っている事を正直に話すべきだと思った。

「幸せにできる自信は…ありません。あるっていう方が、嘘っぽくないですか?
だって、人生なんて先に何が起きるかわかんないでしょ?その時に自分が相手を幸せにできるか、その逆だって、絶対に言えないはずです。あたしは仕事を通じて、いろんな人たちの人生に寄り添ってきました。たくさんの人の人生を見てきて、正解なんてどこにもないってわかったんです。ただひとつだけ、言える事は…相手の事をいつも思いやって、痛みも悲しみも苦しみも、全部自分の事のように受け止められるかって事だと思います。
みんな誰でも自分が一番かわいいんですよ。
でも自分をかわいがるように相手をもかわいがる事ができたら、そこで生まれるものは優しさや、思いやりや…。
少なくとも、相手を傷つける事ではないはずです…」