そんな…
お金があってもそんなに辛い幼少時代を過ごしてたなんて…

「大人になればなるほど、使い分けもうまくなって。気づいたら俺は会社でもプライベートでも、自分を出せなくなってた。それが当たり前になってたのに、コイツと出会って、俺は本当に何十年ぶりかで自分をさらけ出したんだ」

あたし以外の人には…
いつも無表情で感情の見えない氷メガネになってるもんね…。

「多分兄貴も俺と同じように…早く家から出たいって思ってたはずだ…。小さい頃からなにひとつ、家族の楽しい思い出なんてなかったんだから」

寂しそうに語る氷メガネに、見ているあたしもなんだか切なくなった。
そして香菜さんが、あたしと同じく悲しそうな表情で口を開く。

「敏生さんが辛い思いをなさってたのは、あたしも小さい頃から感じていたわ…。だからこそ、あたしの力で救いたかった…。それなのに…この人が現れたせいで…」

香菜さんは言いながら泣き崩れた。

だーかーらー!
それはこないだ車の中でも違うって言ったでしょーが!
わかんない子だねぇ、まったく。