「とにかく、この結婚には賛成できん。お前には、香菜ちゃんがいるだろう。何を好き好んでこんな女と結婚しなきゃならんのだ?おおかた、金目当てだろう?保険の営業なんてやってる女はな、所詮自分の体を売って商売してる売春婦と同じなんだよ」

なんだって?
このクソじじぃ…
もっぺん言ってみろや…。

さすがにこの言葉には、あたしもガマンならなくなった。

あたしはソファから勢いよく立ち上がろうとしたが、隣の氷メガネがあたしの手首をガッチリ掴んでそれを阻止した。
かわりに氷メガネが立ち上がりお父さんに言った。

「コイツを侮辱する事は俺が許さない。アンタにどう思われようが構わないが、コイツを含めて俺の会社の外交員は、みんな一生懸命やってるよ。一部、そういう事をしてる人間がいるかもしれねーけどな。みんながそうじゃねーんだよ!」

「お前も世間を知らんな。まあ、苦労も大してした事のないお坊ちゃん育ちだから致し方ないが…。飯田さん、君が聡明な人なら、私の言いたい事はわかってくれるね?敏生の事を思うなら…潔く身を引いてくれんか?」

「あ…あの…」

あたしが口を開く隙も与えず、氷メガネは席を立った。

「答える必要はない。これ以上話をしても無駄だ。帰るぞ、尚美」

「で、でも…」

あたしと氷メガネの会話を遮ったのは、香菜さんだった。