「ちょっと痩せたんじゃなくて?お仕事なんて適当にしておけばいいのに、ほんとに真面目なんだから」

この美しいセレブを絵に描いたような女性が、お母さん。
なんか"お母さん"と呼ぶのは似つかわしくない雰囲気だ。
氷メガネは母親には一言もくれず、立ち尽くしたまま座ろうともしない。

「敏生さん、お座りになったら?立ったままでお話じゃ、飯田さんもお気の毒よ?」

香菜さんが微笑みながら氷メガネに着席を促す。

出た…
あたしを気遣うふり…。
誠にお上手ですこと。

「そうね…。お座りになって」

お母さんが物言いは優雅だが、鋭い眼光をあたしに向けながら言った。
どう考えても歓迎されていないムード満載だ。

「それで、話というのはそちらの女性の事でいいのか、敏生?」

お父さんは声も迫力がある。
なんか威厳があるというより、怖いっていう方が合ってる。

「…ああ。俺はこの人と結婚する。話はそれだけだ」

えっと…
それだけって言われましても…
あたしはアタフタしてはいけないと思いながらも、戸惑いを隠せない。