「尚美…俺だ…」

嘘…?
そんなはずない。
今日来るとも、このホテルだとも言ってない。

あたしはまだ最大級の警戒モードから切り替えられず、この声は似ているだけだと思おうとした。

黙っていると再び話しかけて来る。

「おい!尚美!いるんだろ?開けろ!」

それにしてもよく似てる。
あたしを不憫に思って神様が遣わしてくれたのかしら…。

いやいや、そんなファンタジーの世界に浸ってる場合じゃない!

あたしは警戒しながらドアに近づき、そこにいる人に話しかけた。

「あなたはどちら様ですか?」

一瞬の沈黙の後、怒りに満ちた低い声が聞こえた。

「んだと?…お前…いい加減にしろよ…。俺の声、忘れたのかよ…?」

あー…
なんか絶対アイツだって気がしてきた…。
でもまだあたしは信じられず。

「あの…うちの所長の名前をフルネームで言って下さい…」

「何…?尚美、お前いい度胸だな…。後で覚えてろ。いいか、よーく聞いとけよ。お前の所の所長は…矢部奏人。似顔絵が得意なちょっと変わったヤツ。どうだ?これで納得できたか?」