「いや…マズイって事はないんだけど…。内務次長の講義は結構難しい内容やるでしょ?確かに俺たちも、基礎知識はあるんだけどさ。営業ばっかやってもう長いから。事務的な話になるとちょっと、ね…。内務次長のようにはいかないと思うんだよ」

「いえ、大丈夫です!所長のやり方で、いいですから!」

あたしはちょっと必死になってしまった。

「そう…?まあ、それなら仕方ないな…。じゃあ、ちょっと待ってね。
今、スケジュール確認するから」

所長はそう言って、いったん席へ戻り手帳を持ってきた。

「えーっと…。試験までにどっかでやらなきゃだよね…。…うーん…」

難しそうな顔をして考えている所長に不安が募る。

「いや、やっぱダメだわ。ごめん、飯田さん。俺、今月出張とか、イベントの担当もあってね。試験までに時間取れそうにないな…。あ、だったらさ、伊藤内務次長に直接やってもらったら?飯田さんの都合のいい時に」

いやいや、それだと本末転倒だから!

所長はまだ赴任して日が浅い。
過去にあたしがあの女とモメてトラブルに巻き込まれた事実は、おそらくあたしを採用する時点で人事かどこかから聞いて知ってるだろう。
けど氷メガネとのやりとりは、あの時同じ班だった三人にしか言ってない。

だから所長がわからないのは仕方がなかった。