氷メガネはうつむいたまま、ジッと一点を見つめて動かない。
イラついたあたしは思わず大きな声を出した。

「ちょっと!いつまで黙ってるつもりよ!
何とか言ったらどうなのよ!」

すると氷メガネはさっきと同じ態勢のまま、あたしの顔も見ずに言った。

「話したよ…。親に」

えっ…
話した、の…?

「そう…なの…?」

氷メガネは言いにくそうにしながらも続ける。

「話したって言うより…、聞かれた…ってのが、正しいけど…な」

聞かれた?
ご両親の方から聞いてきたって、事?

「何年もしゃべってなかった母親から突然電話がかかってきて…。香菜から尚美の事を聞いたと。どういう事か説明しろって言ってきた…」

香菜さん…
そう言えばあたしに宣戦布告したわりに、何事も起きなかった…わよね?

だけど…
宣言通り彼女なりに動いてたの?

「お前に心配かけたくなかったから…言わなかったんだ。香菜が何をしてこようとも、俺は絶対ブレねーから。そのうちアイツも諦めるだろうと…思ってた。でも…違った。アイツは俺の親に泣きついてた…」

まあ…
やりそうだわね、いかにも。
味方はフルに利用しないと。

「で、俺は香菜と結婚する気はないって言った。香菜が既にお前の事を話してて…。会った事もねーのにグダグダぬかすから、勝手にする…って…言った…」

あー…
やっぱり王道の恋愛ドラマ的展開ですね…。

「何の為に親の同意なんかいんの?未成年じゃあるまいし。自分達の意志だけで充分だろ?」

「あたしは、それじゃヤなの」