「何か、ありましたか？」

椅子に座ると同時に所長はあたしに尋ねた。

「はい…。実は明日、研修に出られないんです…。それで、所長に補講をして頂きたいんですけど…」

あたしは出られない理由をはっきりとは言わずに、お願いした。

「そう、ですか…。どうしても休まないとダメなんですか？ほら、飯田さんもわかってると思うけど、結構最初のうちの講義は重要な内容でしょ。まあ、飯田さんは経験者だから、他のみんなみたいに全部が初めてではないけど…。ただ、昔とは変わってる箇所もあるからね？」

所長の言う事は至極当たり前の事。
わかってるけど…

あたしが黙っていると、所長が続ける。

「あ、ちなみに、明日は誰が講師だっけ？」

所長はカリキュラムの載った書類を見ながら言った。

「あ～、明日は営業次長の沢口さんだね…」

所長は明日の講師が変更になった事、まだ知らないんだ…。

「あの…明日はなんか、伊藤内務次長に変更になった、らしいです…」

「え？そうなの？じゃ、内容も違うってことだよね？」

「はい。テキストも違うって、福富トレーナーに言われましたから…」

所長は「う～ん…」と腕組みをしながら言った。

「マズイんですか？」

いつも底抜けに明るい所長には珍しく暗いのが気になって、思わず尋ねた。