「でも…でも、できないよ…、そんなバカじゃないよ…いい年した大人が…」

「バカで結構。俺はね、バカなお前がいーの。バカ上等」

「バカバカ言わないでよ…」

氷メガネがあたしを抱き締める腕の力を弱めて、あたしの顔をのぞきこむ。

「尚美…?今、何思ってる…?全部…言ってみ?」

そんな事言われたって…
言えない…。

あたしが何も言わずに黙っていると、氷メガネが代わりに話し始めた。

「仕事も何もかも全部放り出して、敏生のそばに行きたい。毎日一緒にいたい。ずっと一緒にいたい」

何よ…
そのセリフは…

「どう?当たってんだろ?」

勝ち誇ったように口角を上げる。
素直になれないあたしは唇を尖らせながら言った。

「棒読み。全然感情こもってない」

氷メガネは一瞬目を見開いてあたしの顔を見たあと、派手に笑った。

「…ったく。なんだよ、はぐらかすなよ…」

あたしはどう答えていいのかわからず、返事の代わりにうつむく氷メガネにそっと自分から唇を重ねた。