「あの…お取り込み中申し訳ありませんが…、私はこれにて、失礼…しますね…」

所長はとても言いにくそうにあたし達に言った。

しまった…。
所長がいた事すっかり忘れて…
思いっきり二人の世界に入って…恥ずかし過ぎる…。

「あっ！所長！ほんとにありがとうございました。ご迷惑おかけして…」

あたしは照れながら頭を下げて謝る。

すると所長はまた「これも僕の仕事ですから」と言って微笑んだ。

そして氷メガネの前へ行き背筋を伸ばしてから言った。

「伊藤第一グループ長！私は、あなたが誤解なさるような事を思った事は一度もございません！あくまでも上司として、部下を思っているだけです！ですのでどうか、その、誤解を…しないで…」

所長がそこまで言いかけた所で氷メガネが遮った。

「すまない…。色々疑って悪かったな…。これの事、よろしく頼む…」

そして氷メガネはまた所長に頭を下げた。
所長はメチャメチャ慌てふためいて、どもりながら言った。

「は、はいっ！そ、それは、も、もちろん…こ、こんな、私で、ではあり、ますがっ…」

噛みまくりの所長の肩に氷メガネはそっと右手を置いた。

そして柔らかい笑みを浮かべて「頼りにしてるから」と呟いた。

満面の笑顔を見せて所長は帰って行った。