『ごめんな…なかなか、電話できなくて…』

「ううん、いいよ…。忙しいの、わかってるから…」

あたしは本心を隠して物わかりのいい女を演じる。

『尚美…。元気にやってる…か?』

元気なわけないじゃない…。
アンタが足りなくて病気になりそうよ!

…なんて、言えるわけのないセリフを心で呟く。

「うん!元気よ!それだけが取り柄なんだから」

あたしは精一杯取り繕って答えた。

『俺は元気じゃない』

え? どういう…事?

「どうしたの?どっか具合でも、悪いの!?」

『いや…お前に会えないから…元気ないに決まってんだろ…』

もう…コイツは…
あたしが必死に我慢してるっていうのに!
自分はシャーシャーと言ってのけるんだから…!

『お前は…元気なのか?俺が…いなくても…』

何なのよ…。
そんな事
聞かなきゃわかんないわけ?

「バカ!こういう時こそ、あたしの心を読みなさいよ!…いつも…みたい…に…」

堪えきれずに泣き出したあたしに、氷メガネが言う。

『だな…。でも…初めてわかった。お前がそばにいてくれて、初めて俺は俺でいられるって、事に…』

そんな、そんな事、言わないでよ…。
言ってもどうにもならない事を…。

「そんなの…あたり前、じゃない…。だからって…どうする事もできないでしょ…?」