「…落ち着いたらすぐに会いに、来るから…」

そう言った氷メガネの声も…
涙を堪えているのだろうか、少し震えている。

相も変わらず何も言う事ができないあたしに、今一番欲しかった嬉しい言葉をかけてくれた。

「尚美…。愛してる…」

そして再び強く唇を重ねた。
何度も何度も、あたし達は呼吸する事を忘れたかのように…
いつまでも惜しむように…
重ね続けた。

ようやく唇が離れ、あたしは消え入りそうな声で言った。

「あたしも…愛してる…敏生…」

これからもっと何度でも言いたいこの短い愛の言葉を、皮肉にも別れる前日に言うなんて…
もっともっと…
言っておけばよかった…。

翌日は朝から引越の業者が来るからどうしても泊まる事ができず、あたしは自宅に帰るしかなかった。

送るという氷メガネをなだめ、なんとか自分の車で帰ってきた。
だって、送ってもらったらもっと辛くなるから…。
いつまで一緒にいても、キリがない事はわかってるから…。

どこかでケジメをつけなきゃいけなかった。

これからの事を思うと…
いつまでも先の見えないトンネルの中に入っていくような気がした。

いつかは出口が見えるのだろうか?
この長くて暗いトンネルを抜け出せる日が、本当にやってくるのだろうか?