氷メガネの突然の異動の話で…
どうして今夜彼がこれほどまでに辛そうなのか、ようやく理解できた。

そしていつか訪れると思っていた別れが、すぐそこに来ていたという事実に、あたしはまるで雷に打たれたかのようにショックを受けていた。

だけど…
泣いても叫んでも、現実を覆す事などできない。
恋する女である前に、仕事を持つ身として…
そして母親として…。
あたしは絶対に自分のワガママを通してはいけないと思った。

どんなに辛くとも、笑顔で見送る…。

そう、決めていたのだから…。

黙ったままあたしを抱きしめていた氷メガネはいつもの彼らしからぬ消え入りそうな声で、絞り出すように言う。

「年末だから…現任との引き継ぎの時間が取れないらしい…。連絡あったのが昼で…。だから…、だから…どうしても今夜は尚美に会いたかった…。ごめんな…もっと…優しくしようと…思ってたんだけどな…」

「…………」

すすり泣く事しかできないあたしを、氷メガネは折れるほど強く抱きしめる。

何も言わなくても…
アンタの気持ちは痛い程伝わって来た…。

だからあたしも全身で受け止めた…。

あたしの気持ちも…
きっと…伝わってるんでしょ…?