ようやく沈黙を破って出した氷メガネの声は、なぜだか少し沈んでいるように聞こえた。

『急で悪いが、今夜、会えねーか?』

「え?今夜?」

聞き返したあたしに、更に氷メガネの声が沈んだ。

『無理…か?』

会えると思っていなかっただけに、嬉しいサプライズがあたしをちょっと黙らせてしまっただけ…。
あたしはできるだけ明るい声で答えた。

「ううん、大丈夫…、実は今、M市の海に来てるの…」

『そう、なのか?』

氷メガネの声がさっきより少しだけ元気さを取り戻した。

『もう少し…かかりそうなんだ。六時にはあがれっと思うから。マンションの駐車場で、待っててくんねーか?』

「うん…。わかった」

『晴彦くんは、大丈夫か?』

いつも必ず晴彦の事を気遣ってくれる。
ほんとに有難い事だった。

あたしが晴彦なら大丈夫だと言うと、氷メガネはホッとした様子だった。

本当に晴彦はあの若さで大したものだと、我が子ながら思う。
氷メガネがもうすぐいなくなる事で、精神的にまいるだろうあたしを常に気遣ってくれる。
毎日氷メガネのマンションから仕事に行けとまで言ってくれた時は、さすがに参ったけど…。
でも、そんな晴彦の気持ちがすごく嬉しかった。

そしてあたしは適当に時間を潰してから、マンションへ向かった。
少し早めに着いたせいで、まだ氷メガネの車は戻っていなかった。
あたしは車の中でラジオを聞きながら、一服する。

しばらくすると、見慣れた外車が駐車場に入ってきた。