あたしの言葉に納得しきれていないのか、氷メガネはその表情を曇らせる。

「…確かに…尚美の言う通りかもしれない。…でも俺は…尚美と離れたくない…。お前を失う事だけは…どうしても…耐えられない…」

伸びてきた氷メガネの腕があたしを抱きしめる。
その腕の力があまりにも強くて、氷メガネの苦しい気持ちが嫌というほど伝わってきた。

切なさに押しつぶされそうになったあたしの口から自然に言葉がこぼれる。

「あたしも…敏生と…離れたく…ない…」

あたしが名前を呼び捨てにした事で、氷メガネは驚いてあたしの顔を見つめた。

そしてそのまま唇が重なった。
一瞬だけで離れた氷メガネが嬉しそうに呟く。

「今のサイコー…。何回でも…聞きたくなる…」

めちゃくちゃ恥ずかしい…。
ただ名前を呼んだだけの事なのに、あたしの体はしびれるような感覚に陥った。

そっと唇を離した氷メガネが、そのままメガネも外しながら言った。

「ほかにもう聞きたい事ないか?」

「え…?…うん…。今はとりあえず…」

「また疑問に思ったらその都度、聞いて?」

優しい眼差しであたしを見つめながら氷メガネはそう言った。

そしてそのまま再びあたしの唇を優しく塞いだ。

こうして快楽に溺れてしまうのはもしかしたら間違っているのかもしれない。
不安な気持ちを忘れる為にとる手段でもないのかもしれない。

でもあたしは…
お互いの温もりを確かめ合う事は愛を育む上でも必要な事だと思う。

少しだけでも、それで不安が解消されるなら。根本的な解決でなくても…

今のあたしは氷メガネとの時間が最大の心の癒しだった。