「そう、なのか？時田マネージャーにも、なんか言ったのかアイツ？」

ただ香菜さんと会っただけで麻美がそこまで心配するのはおかしいと思ったのだろう。
氷メガネはそうあたしに質問した。

あたしは言いたくない言葉を最愛の人に向けて発する。

「…うん…。伊藤内務次長の婚約者だって…」

「…マジか…」

氷メガネは頭を抱えた。
予想外に落ち込む姿に焦ったあたしは、氷メガネを安心させたくて必死に言葉を紡ぐ。

「あっ、でも、もちろん、麻美はあたしとアンタの事ちゃんとわかってるから…。ちょっとビックリしたくらいで、きっと…大丈夫よ…」

話が途切れた所で氷メガネがいきなり関係ない話をぶつけて来た。

「ごめん、どうでもいいけど、お前いつまで俺の事、次長って呼ぶつもり？」

え？

今、そんな事、どうでもよくない？
かなり深刻な話題の最中ではなかったですか？

あたしが驚愕の表情で黙っていると、相変わらずＫＹなコイツはシレッと続ける。

「俺も尚美って呼んでるんだし、いい加減、名前で呼べよ…」

だから…
今はそれどころではないでしょーが！
あたし達の間にあるたくさんの問題を解決する方が先じゃないの？

あたしがそう思っているというのに…
このＫＹドＳ野郎は…

「なんで呼べねーんだよ…。そんなに変な名前か、俺の名前は？」

あたしの顔を射抜くように、メガネの奥の瞳を光らせながら迫ってくる。