氷メガネの言葉があたしの今までの不安をいとも簡単に拭い去る。

そしてもう一度、氷メガネはあたしを抱きしめてくれた。
さっきよりも少し力強く…。

あたしはそれだけで、心がさらに穏やかになっていくのを感じていた。
少し落ち着きを取り戻したあたしは、ずっと聞きたかった事をこの際だから聞いてみる事にした。

「あの…聞いても、いい?」

「ああ、もちろん」


氷メガネはあたしの質問に答える態勢を整えて、あたしが口を開くのを待っていた。

「香菜さんは…その…ずっと内務次長の事が好きだったのよね?」

氷メガネの言う、ただ親が勝手に決めた許嫁という言葉にあたしはずっと違和感を覚えていた。

それは香菜さんが明らかにコイツに対して恋愛感情を抱いていると感じていたから…。

「…ああ…小さい頃から言われて育ったってのもあるだろ。いずれは俺と結婚するんだって」

「でも…それは香菜さんの片思いだって事?」

「そうだね」

氷メガネはサラリと言った。

「今まで…ずっと?一度も意識した事…ないの?」

「ないね、一度も」

即答だわ…。
どう見ても、嘘ついてるふうにも見えないし…。

「でも…その…好きな人ができなかったら、その時は…香菜さんと結婚するつもり…だったの?」

あたしの質問に目を見開いた氷メガネが一瞬だけフッと笑う。

「そもそも好きじゃないのに結婚とか、あり得ないし。もし誰も好きにならなかったとしても香菜とは結婚しない」