「ダイジョブだよ…"俺"はな。ていうかダイジョブじゃねーのは母さんだろーが。ちゃんと敏生さんと、正面から向き合えよ」

わが息子ながら、毎度言われる言葉がもっとも過ぎて思わずうつむいた。

「晴彦…ごめんね…。なんか、どっちが親か…わかんないね…」

「ンな事いーから。早く行けって。敏生さん短気なんだからよ」

わざとつっけんどんに突き放すような言い方も、晴彦の優しさだと思うと目頭が熱くなる。

晴彦に心配をかけないためにも…、ちゃんと氷メガネと向き合わないとダメだ。

逃げちゃ…
いけないって事だよ…ね…。

玄関から出ると氷メガネが車の運転席のドアに背を預け、ポケットに両手を入れた格好で立っていた。

あたしが近づくと無言のまま助手席にまわり、ドアを開けてくれる。
黙ったまま助手席に乗ったあたしに氷メガネも黙ったまま車を発進させた。

国道から高速のインターへ入る。

沈黙の車内で気まずい雰囲気を忘れようと窓に流れる景色を見つめる。

田舎の高速は山ばかりでなんの変哲もない景色。

助手席の窓に映るのはその景色ではなく、虚ろな表情の女…。

あたし…
なんて情けない顔してんだろ…。
ただでさえ見抜かれやすいあたしがこんな顔してたら…
氷メガネでなくても何かあったって…すぐわかるよね…。