玄関を開けると既に何かいい匂いが漂っている…。

「ただいま…」

戸惑う気持ちを隠して声をかける。
すると、氷メガネがエプロン姿で出迎えてくれた。

「お帰り」

「ちょっと何そのエプロン!全然似合ってないし!」

あたしはかわいいクマの顔がついたエプロンにウケる。
おかげで暗い表情を見せずに済んだ事に少しだけホッとした…。

「その辺の店で適当に買ったからな」

普段と変わらない氷メガネの受け答えにも安堵する。

でも…、なんであたしには何も連絡くれないでいきなりうちに来たりするの?
晴彦にだけ連絡したのは…どうして?

あたしは聞きたい事を無理やり胸の奥に追いやった。

氷メガネが腕によりをかけて作ってくれた夕食に晴彦は大興奮して何度もおかわりし、テーブルに残されたのは空になった食器だけだった。

あたしは香菜さんが気になって、ほとんど手をつける事ができなかった。
氷メガネの顔をまともに見る事もできず、平静を装うどころかいつもと全く違う態度になってしまう。

食事中はその事で氷メガネに何か言われる事はなかった。
食事が終わると、晴彦と氷メガネは二人で後片付を始め。
食器を運ぶ晴彦に氷メガネは洗い物をしながら言った。

「ちょっとだけ、お母さんを借りてもいいか?」

「どーぞ、どーぞ。帰ってこなくてもいいっすよ」

何、その軽い感じ…。

「バカね、何言ってんのよ。帰って来るに決まってるでしょ…」