「それは…あなたのせいよ…。あなたが現れなかったら、あたしと結婚してた」

キッパリと言い切る香菜さんの言葉にあたしの胸は抉られたかのように痛んだ。

確かに以前はそうだったかもしれない…。
でも…今は明らかに状況が違う。

あたしは怯みかけた気持ちを奮い起たせて言った。

「そう…かもしれませんね…。でも…今は、もう無理じゃないですか?」

「それはどうかしら?あたしが敏生さんを取り戻せばいいだけの話でしょ」

少し口角を上げながら言い放った香菜さんの顔は、恐ろしい程余裕に満ち溢れている…。
そんなに濃いメイクを施していない目元がかえってその瞳の鋭さを強調させていた。

そんな香菜さんの強い視線を跳ね返すだけの目力がないあたしは、強ばる顔を無理矢理笑顔に変えながら負けずに言い返す。

「だったら…わざわざあたしに会いに来る必要なんてないんじゃないですか?直接彼に会いに行って、なんとかすれば」

「…すごい余裕ね…。いいの?ほんとにするわよ?」

香菜さんは不敵な笑みを浮かべながら、そう言った。

この人が何を言おうとも…
あたしはアイツを信じてる…。

そう言い聞かせる事で、あたしは自分で自分を洗脳しようとした。

黙ったままでいるあたしに香菜さんがイライラを隠す事もせずに言い放つ。