「えっ?」

驚くあたしに香菜さんは続ける。

「知ってるんでしょう?敏生さんのマンション」

「…………」

「いいわ。それなら、敏生さんの会社へ行って」

「それは…」

あたしはどうしたらいいのかわからず答えられない。

「どうして行けないの?あなたたちが秘密のお付き合いをしているってバレるのが怖い?」

「それは…そんな事は…ありません」

一体この人は、何がしたいんだろう…。
あたしの事が憎いのは…間違いないと思うけど…。

「何が…目的なんです…か?」

あたしは恐る恐る尋ねた。

「何が?決まってるじゃない!あたしの敏生さんを奪っておきながら!返してよ!元々あの人はあたしのものなの!小さい時からずっと、あたし達は結婚するって決まってたのよ!それをあなたが…いきなり現れて…」

香菜さんはその大きな瞳から涙をポロポロと溢れさせた。

泣き出した彼女に驚いたあたしは、見えてきた家電量販店の駐車場に車をとめた。

そして香菜さんの顔は見ずに前方に視線を向けたまま続けた。

「あなたが…氷…内務次長の婚約者だという事は、聞きました。でもそれは親同士が決めた事で、彼はそのつもりはないと…」

あたしのその言葉を聞いた香菜さんの視線が、見ていなくてもキツくなっているのだろう。

嫌と言うほど身体に突き刺さるように感じる…。