「晴彦…。ごめんね…母さん、アンタの事全然わかってないみたい…。コイツに言われなきゃわかんないなんてね…。情けなすぎて笑えるわ…」

晴彦は何も答えてくれない。

「晴彦…」

もう一度名前を呼んだところで、晴彦が氷メガネの後ろから姿を見せた。

「晴彦!」

「うるせーよ、そう何回も名前呼ぶなって。
とにかく、俺は…敏生さんに母さん任せるからさ。なんかあったらちゃんと母さんにも言うから、心配すんなって」

敏生さんって…
何よ、もうそんなに仲良くなっちゃったって事?

まだあたしだって…
名前呼んだ事、ないのに…。

「じゃ、とりあえず晴彦くんを送るぞ。お前の車についてくから、先行って」

結局いつもアンタが仕切るわけね…。
ま、いいけど。
その方が話も早いから…。

あたしは晴彦を車に乗せて、自宅へ向かう。
車の中でまた気まずくなるのを覚悟してたけど、そうじゃなかった。

「なあ、母さん…」

「うん?なあに?」

「…ん…。アイツ…おもしれーな…」

「は?何?どういう事?」

「アイツさ…。人の事ちゃんと見てるよな…。見抜いてるっていうか。母さんにはない部分をいっぱい持ってる。珍しく今回は見る目あるじゃん」

晴彦の言葉は、あたしの胸にズンと響いた。