営業所に戻ったあたしは、なんとなくいつもと違う雰囲気に眉をしかめた。
何がおかしいのかと考えてるところに、美晴が話しかけてくる。

「ちょっと、尚美さん！ビッグニュースですよ～！しかも、尚美さんにとっては朗報です！」

相変わらずテンションが高い美晴に呆れながら、「何が」と尋ねる。

すると急に声が小さくなって、あたしの耳元に近づいて言った。

「伊藤内務次長、今年中に本社に異動ですって！よかったですね！尚美さんの一番嫌いなヤツがいなくなって！」

今じゃ一番好きなヤツだけどね…。
あたしは言えるはずのないセリフを心の中でつぶやいた。

あたしは、キャハハと笑いながら自分の席に戻って行く美晴に舌打ちしながら、席に座っている麻美をにらみつけた。
麻美は舌をペロッと出してあたしにアピールした。

もう！
やっぱり嫌な予感が的中しちゃったじゃない！

これじゃ他の営業所にまわるのも時間の問題だわ。

あたしは焦って、営業所のビルから出て氷メガネに電話をかけた。
仕事中に電話するのは気が引けたけど、今は緊急事態だし怒られても許してもらうしかない。

でも電話に出た時の氷メガネの第一声は、そんなあたしの懸念が無意味だった事を瞬時に悟らせた。