「尚美、携帯、貸して」

え?携帯?
あたしは言われるがまま携帯を渡す。

「時田さんの番号、出すよ」

「え?ちょ、ちょっと、待って。どういう…」

まだ全部聞き終わらないところで氷メガネは話を始めていた。

「もしもし、時田マネージャーですか?
……申し訳ありませんね、お目当ての方ではなくて。今のお叱りは、一言一句本人に伝えますから、ご安心を。あ、申し遅れました。支社の伊藤です」

あたしは隣で、顔面蒼白になって氷メガネが麻美に電話するのを見ていた…。

「後日改めて、飯田本人から説明させますが、取り急ぎ、私の方からも説明させて頂きます。実はこの度、私は飯田さんとお付き合いさせて頂く事になりまして。それで今日は、私が無理やり彼女を直帰させたと、まあそんな次第でして」

まるで何かすごい事を説明してるようだけど、単にずる休みをしたって事ですよね?

しかも、職権乱用、みたいな…

「ご理解いただけましたか、それを伺って安心致しました。あ、そうそう。くれぐれも飯田本人にはお手柔らかにお願いしますね。
とても繊細で傷つきやすい人ですから」

あー…ヤバい…。
麻美の顔が目に浮かぶ…。
キレてるよ、絶対…。