さっきとは別の意味で黙り込むあたしに、氷メガネは笑いながら言う。

「って言ったけど、もちろん俺一人じゃ決めないから…。それくらいの…気持ちでいるって…事だから…。お前はすぐに勘違いするだろ?これくらい言っとかないと誰かに持ってかれちゃうから…」

「え?持ってかれるって?」

驚いて聞いたあたしに氷メガネは、「いいから!」と言って顔を赤くさせた。

「その…息子さんの事も、あるし…。受験もあるんだろ?だから、無理しなくても…いい…」

「うん…。母子家庭だから…あたしがいなくなるわけには…いかなくて…」

「うん。わかってるから。ビックリさせて…悪かった」

なんか気持ち悪いくらい素直なんですけど…

「異動になって本社に戻っても…会いに…来るから…」

真剣に見つめられてこんな事言われたら…
嬉しくないはずがない…。

あたしは情けないくらい涙腺が緩み、再び泣き出した。

「…ったくもう…。泣き虫だな…」

氷メガネはそう言いながら、あたしの涙を指でそっとすくう。

その指の動きは口の悪さと反比例するかのようにとても優しかった。

「…ダメだ…。ヤバい…」

突然にそう言った氷メガネの顔を見上げると…
いきなりメガネを外した。

「どしたの…?メガネないと、見えないんじゃ…?」

「見えない方が…いい事もある…」