言われるがままカップに口を近づける。

やけどをしないように慎重にすすると、ほんとに甘さが控えめで香りのすごくいいココアの味がした。

「おいしい…」

思わず口から漏れた。

「お口に合ったようですね」

恥ずかしい…。
いつもコイツのペースにはめられてしまう…。

あたしの恥じらいを無視して、氷メガネがいきなり切り出した。

「それで、お話というのは?」

「へっ?」

あまりにもいきなりの発言に、あたしはビックリして吹き出しそうになった。

「あなたからの着信があったようですが、あの時は運転中で出られませんでした。支社にもお電話いただいたようですね。ご丁寧に会社から報告がありました。何かお話があるのでは?」

ほんとに情けないけど完全にコイツには見抜かれてる。
もう、こうなったらカッコつけるのはやめよう。

富美子とも約束したんだ。
当たって砕けろよ。

「そう、ですね…。内務次長に…どうしても言いたい事があります…」

「ほぅ…。珍しく素直ですね」

ダメだ、挑発に乗るな…。
あたしは自分に言い聞かせる。

「あの…信じられないかもしれませんが…。
あたし…実は…その…伊藤…内務次長の事が…」

どうしよう…、心臓がドキドキしすぎて声が震える…。