「香菜…。悪いけど、先に帰ってくれないか…。仕事を…思い出した…」

ほんとに、何言っちゃってんの?
そんなわざとらしい事普通信じるわけないでしょ?

そう思っているあたしに、まったく裏腹な答えが香菜さんの口から出た。

「わかりました…」

え?
なんでそんなに素直にわかっちゃうの?

そして香菜さんは、あたしに小さく会釈をして去って行った。

一体どういうつもりよ…。
いかにもカノジョって人を追い返したりして…。

何考えてんのよ…。

「飯田さん…少し、お時間よろしいですか?」

いいも何も…
元はといえば、あたしはあなたに会いに来たんですから…

あたしはそんな言えるはずもない言葉を心の中で吐いていた。

「はい…。少しだけなら…」

相も変わらずかわいげのない言い方をするあたしに、氷メガネはフッと笑った。

「では、行きましょう」

いつもみたいに自分のペースで、あたしの都合なんか聞かずにどんどん進めていく…。

最初はあんなに嫌だったのに…
今では懐かしくて喜びすら感じている。

スーツじゃない氷メガネのラフな姿なんて初めてだけど…

Gパン姿のコイツなんてすごく新鮮で…

足、長いな…。
カッコいい…。

あたしはそう思いながら氷メガネについて行った。