アイツと偶然に会える事がこんなに嬉しくないと思うなんて…

よりにもよって、一番会いたくないシチュエーションで会ってしまうなんて…

あたしは自分の運命を呪うしかなかった。

「敏生さん、ごめんなさい。ぶつかってしまって、バッグの中身が出ちゃったの。こちらの方が一緒に拾って下さって…」

敏生さん…。
氷メガネの事を名前で呼ぶ人…。

そして氷メガネはさっき、この人の事を“かな”って呼び捨てにしてた…。

ハハ…
ほんと、あたしって惨めだよね…。
唯一の救いは、まだコクってなかったって事だけど。
でもこの偶然はイタすぎる…。
今のあたしにとって、こんなに辛い偶然はないわ…。

「あ、あの…じゃああたしはこれで、失礼します…」

そそくさとその場から離れるあたしに、事もあろうに氷メガネが声を掛けた。

「ありがとう、ございました…。飯田さん…」

なんで、今ここでそういう事言っちゃうかな?

あたしが振り向きもせずそのまま立っていると、香菜さんが氷メガネに尋ねた。

「敏生さんの…知り合いの方…?」

「ああ…会社の、営業の職員の方だよ…」

「そうなの?あたし、知らなくて…すみませんでした…。あの、あたし…」

何か言おうとした香菜さんに、氷メガネが間髪入れずに口を挟む。