いつも気丈なあたしが涙を見せる事は、富美子にただ心配をかけるだけで。
オロオロしている富美子には申し訳なかったけど、どうしても涙が止まらなかった。

泣きながらあたしの頭の中には、氷メガネの優しく微笑む顔が浮かんでしまい、それが余計に涙を誘ってしまう。

アイツの怒った顔…
ほんとにめったに見せない、笑った顔…
得意になるといつもメガネを上げ下げするクセ…

こんなに短い期間で、あたしはたくさんアイツの事を知ってしまった。
本当はもっともっと、アイツ自身が知らない部分まで、知りたい…。

それくらい…アイツの存在はあたしの心のほとんどを牛耳ってしまってる…。

だけど…
やっぱり、あたしには…

できない。

この年になって久しぶりに本気で好きになってしまった人に振られたら…

多分、立ち直れない。

もっと若い時なら、バツイチ子持ちじゃなかったら、気持ちが赴くまま突っ走れたかもしれない。

でも今のあたしは…
そこまでの勇気を持ち合わせてはいなかった。

「ごめん、富美子…。あたしやっぱり無理だわ…。潔く告白してバッサリと切られる覚悟、できてない…」

あたしは富美子の気持ちをムダにするようで悪いと思ったが、それしか言えなかった。