まさか…
アイツ、あたしが風邪気味だと思ってこの季節にあんなあったかいもの作ったんじゃ…。

しかも薬までくれたし…。

いや、まさかそんなはずはないよね。
アイツがあたしの為にそこまでするわけないもん。
だって、あたしとアイツは天敵同士なんだから。

絶対にあり得ない…。

偶然よ、偶然…。
たまたま作ったら、あたしも風邪気味でちょうど良かったんだよ。

あたしは掃除機をかけながら、頭に浮かんで来る氷メガネの顔を無理やり打ち消した。

久しぶりに部屋中を掃除すると、狭い家でも結構時間がかかるものだ。
気が付くともうお昼をとうに過ぎていた。

あたしは冷蔵庫を開けて中にある食材を確認した。

あ…
昨日帰りに買い物しようと思ってたから、何もないや…。

そうだね…。
とりあえずコンビニ行ってなんかすぐ食べられるモンを買おう。

それから改めて買い物行って…。

頭の中でやる事を整理していると、インターホンが鳴った。
誰だろう…?

平日の昼間に来るヤツなんて、どうせなんかの営業だよね。
でもあたしだって平日にどっかの家に行く事あるから、営業の人の気持ちわかるし。
どうしても居留守使ったりヒドイ事言って追い返したりできないのよね。

そう思いながらインターホンに出る。

「はい…」

「あの…伊藤ですが…」