『はぃ?』

氷メガネが自分のメガネを持ち上げている姿が、その声から簡単に想像できた。
イラつくといつもやってたアイツのクセ。
今度は笑いをこらえるのに必死になる。

『辞退、とは。どういう意味でしょうか?』

絶対内心でキレてる筈なのに無理して平静を装ったりして。
今頃肚ん中、煮えくりかえってるくせに…
あたしは氷メガネの怒りを煽るかのように、さらに冷静に言葉を放つ。

「そのままの意味です。今日面接を受けさせて頂きましたけど、今回は私の方から辞退させて頂きます」

『面接の結果はまだ出ていないのに、辞めるという事ですね?』

しつこい…
そう言ってるじゃん!

「はい…。そうです」

『もし、合格していたとしても、ですか?』

は?
合格なんて、アンタが期待すんなって言ったんだよ?
どの口が合格なんて言えんのよ…。
あたしは呆れながらも、「そうです」と答えた。

氷メガネはしばらく黙り込んでいた。
もしかするとまた何か嫌みで返してくるかと警戒しているあたしに、意外な答えが返ってくる。

『わかりました。こちらに頂いた書類は、履歴書だけお返し致します』

「そうですか。それでは、これで失礼します」

あたしはそう言ってアッサリと電話を切った。
きっとヤツは今頃、訳が分からずにいる事だろう。
まぁ、またあの会社に勤めても営業やってるうちは個人的にヤツと会う事はほとんどない。

これで縁も切れたって事よ。
あー、せいせいした!