ヤツの視線を感じたが、そのまま無言を貫きあたしは引き出しの鍵を閉めた。
出勤簿に印鑑を押すために所長のデスクへ向かおうとした所で、氷メガネがあたしに声をかけてきた。

「…飯田さん…。ちょっとよろしいですか…?」

何よ…。
やっぱあたしに用だったって事?
そう思うと少し焦ったが、あたしは冷静さを装って振り向いた。

「何ですか?」

「…………」

コイツ…
自分から声かけといてだんまりとか…
あり得ないし…。

「あの…」

沈黙に耐えられなくなったあたしが話そうとした所で、ようやく氷メガネが口を開いた。

「スーツの袖口が…破れています…」

は?
何それ?スーツ?

あたしは自分でも全く気付かなかったスーツの袖口を見てみた。
すると、氷メガネの言う通りかぎ裂きになっていた。

「あ…ほんとだ…」

マズイ…
あたしスーツこれしか持ってないんだよね…。
以前に働いていた時に使ってたのは人に譲っちゃったから。

とりあえず補修して着るか、通販で安いのを買うか…どうしよ…。

考え込んでいるあたしに氷メガネが言った。

「さっきの…自販機でだと…思います…。申し訳ありません…。私のせいで…」