県内でただ一つしかないM支社は、管轄する営業所が七つある。
広い県内では、その七つの営業所がお互い近くにあるわけではない。
営業所の中には、支社から片道三時間以上かかるところもある。

支社長はその七つの営業所に顔を出したり、本社に出張したり、同業者の会議に出たり…
毎月ある入社式にも当然出席しなければいけないし、それぞれの階級ごとにある研修にも顔を出さなければいけない。

とにかく常に忙しい立場の人なのだ。

だから、急に面接といってもつかまえられない事が多い。
要するに急がないとダメって事ね…。

「あと二週間で支社長面接までいかなきゃダメって事だね」

『さすが尚美。ご名答!』

確かに麻美の言う通り、これを逃して再来月になればその分収入がないまま過ごさなければいけない。
失業保険もたかがしれてる。
シングルマザーであるあたしは遊んでいるわけにはいかないのだ。
貯金もあとわずかしか残ってないし…。

「わかった…。じゃあ、段どりは頼むね…」

あたしの言葉に麻美が電話の向こうで『ヒャッホー!』と叫んでいる。

麻美との通話を終えたあたしは、すぐさまM支社に電話を入れた。