「いいですか。飯田さん。あなたは支社長のかわりにこの会社に残るのです。
これからのあなたに課せられる物は、今までとは比にならないくらい重たい物になります。その覚悟が…あなたにできているのですか?」

珍しく氷メガネが感情的になっている…。
この男がこれほどまでに興奮するなんて…

「黙ってないで、何か言ったらどうですか!」

コイツの大声、初めて聞いたわ…。

いつの間にかエレベーターは一階ロビーに到着していた。

あたしはロビーに降り立ちながら氷メガネに言った。

「あたしは…支社長にそこまでして頂ける価値のある人間ではありません…。
だから…内務次長が心配される事はないです…」

氷メガネはその鋭い眼光を少し緩めたように見えた。

「…あなたが…思いのほか、賢明な方で安心しました…」

「明日すぐに辞表を所長に提出します…。お世話になりました…」

あたしは悔しいとか悲しいとか、そんな気持ちになっていない自分が不思議だった。

きっとそれは…
支社長が自分を犠牲にしてでもあたしを守ろうとしてくれた事で、今までの苦労がすべて報われたような、そんな気がしたからかもしれない…。

「最後にひとつだけ、聞いてもいいですか?」

あたしは氷メガネにここぞとばかりに尋ねた。