何も言えずに黙っているとエレベーターが到着する。
あたしが乗り込むと氷メガネが一緒に乗り込んできた。
驚いたあたしを気にする様子もなく氷メガネが言った。

「飯田さん…。今回の処分は特別な計らいでなされたものです…。査問委員会において初めに出された処分は、解雇でした…」

解雇…?
やっぱりそう、だったんだ…。
あたしは今さらながら解雇という恐怖に慄いた。

氷メガネは続けた。

「一度決定した処分を覆すのは、並大抵の事ではありません。なぜ、解雇されるはずだったあなたがたった一週間の自宅謹慎で済んだのか…おわかりですか…?」

どういう意味…?
コイツは一体、何が言いたいの?
あたしは何も答えられずに黙るしかなかった。

すると氷メガネはいきなり今の話の流れではない一言を言い放った。

「今月末で…支社長が退職されます…」

え…?
支社長が…退職…?

それって…

あたしが驚きの表情で氷メガネの方を見つめていると、更に氷メガネは続けた。

「そうです…。あなたをこの会社に残すかわりに…あの方が身代わりになった…」

そんな…なんで、あたしなんかの為にそこまで…?

「あなたはそれで平気なのですか?あなたと支社長では、会社に与える利益がどれほど違うか、考えてみた事がありますか?」

初めて知らされた事実に驚愕する。
ショックのあまり声を出す事もできないでいたあたしに、氷メガネがさらに追い打ちをかけてきた。