「ああ…それもお宅にはもう頼みたくないわね」

顔をゆがめて話すオーナーは、あたしが知ってるオーナーとはまるで別人のように見えた。

「では、解約という事でよろしいでしょうか?」

しかし眞子はなに食わぬ顔で、「解約」と口にした。
そして解約する上で必要になる事項を説明し、説明を受けたという確認兼同意書にサインと印鑑をもらった。

解約の手続きでもう一度だけ訪問する事を話し、あたしたちはサロンから出た。

帰りの車の中で眞子が言った。

「それじゃ、早速今日の夕方、所長に報告するね」

「日比谷さん…あたし…ここの所忙しくて、忘れてたんですけど…。あのオーナー…、元はと言えば藤堂から紹介してもらった顧客だったんです…。きっとあのオーナーは藤堂とグルです…。そんな大事な事を忘れて…本当にスミマセン…」

堪えきれず、涙が出た。

「大丈夫だよ。あたしが何とかするから」

「でも、支社長が後ろ楯についてない今は…アイツらの思うツボになりますよ…?」

「だとしても…あたしは戦う前に、尻尾巻いて逃げる事だけはしたくないの。やれるだけやってみて、それでもダメなら…。その時はその時。潔く身を引くわよ」