眞子は電話でもひたすらオーナーに謝罪して、なんとか明日の約束を取り付けてくれた。

翌日、手土産を持参してサロンを訪ねた。
奥の応接室で待っていると、ほどなく厳しい顔つきでオーナーが入ってきた。

眞子とあたしはすぐに立ち上がる。
そして間髪入れずに眞子が頭を下げて謝った。

「この度は失礼な事をしてしまい、申し訳ありませんでした!」

すると、オーナーは薄ら笑いを浮かべながら眞子に言った。

「あなたも大変ね…。出来の悪い部下を持つと…」

あたしはどんなに腹が立とうとも、決して態度には出さないと約束させられていた。
だからどんなにオーナーが非道な事を口にしても、ただだんまりでいなければいけなかったのだ。

「それで本日お邪魔しましたのは、契約の事なんです」

眞子が切り出すと、オーナーは眼光を鋭くしながら言った。

「何?やっぱりうちが保険料を猫ババしたと、仰りたいの?」

眞子はいつもの冷静さを保ちながら、オーナーの挑発に乗る事なく答えた。

「いいえ、違います。保険料の事ではありません。飯田が失礼な事をしてしまい、ご立腹の事と思うのですが、プランの方はどのように致しましょうか?継続して頂けるのでしょうか…?」

オーナーはふてぶてしい態度で答えた。

「あんな事を言われたらね…。信用できませんわ。このお話はなかった事にさせて頂きます」

眞子は少しだけ黙ったあと、

「わかりました…。では既契約はいかが致しますか?」

と聞いた。