ミリアは少し考えてから、フッと笑って模擬刀を受け取った。
 最後に憎い相手を剣で叩きのめしてから街を出るのもいいと思ったのだ。
 ウォリーとミリアは模擬刀を構え、対峙する。
「今まで散々私に負けていたくせに、剣で勝てると思うの?」
「どうかな? 僕だって、前よりは強くなったんだ。お助けマンのお陰だけどね」
 ミリアは顎をクイッと動かして合図する。
「ほら、いつでも来なさい」
 次の瞬間、2人の剣が激しくぶつかった。
 最初の1撃でミリアは驚く。ウォリーの攻撃が重い。かつての脆弱だった彼からは想像もできない攻撃だった。彼の攻撃を剣で受けながら、お助けマンの強化の強さを実感する。
 しかし彼女も劣勢ではない。彼の素早い動きに合わせながら剣を叩き込んでいく。
 周囲に模擬刀の刃がぶつかり合う音が響き続ける。2人にとっては、とても長い時間のように感じられた。
「うっ」
 ウォリーの勢いに押され、ミリアの体勢が崩れる。そこに生まれた隙を彼は見逃さなかった。
 彼女に向かって剣が振り下ろされる。
「うあっ!」
 ガキンという音とともに、1本の剣が弾き飛ばされた。
「はぁ、はぁ、やはり弱っちいね君は」
 弾かれたのはウォリーの剣だった。
 ミリアが体勢を崩したのはわざとだ。あえて隙を見せて彼を誘い込み、カウンターで彼の手元に攻撃を与えたのだ。
 彼女はウォリーの喉元に模擬刀を突きつける。
「私に剣で勝とうなんて100年早いんだよ」
 そう言われた彼は安心したように笑顔になった。
「はは、よかった」
「何だよ? その顔は」
 彼の悔しがる姿を期待していたミリアにとっては気に入らない反応だ。
「やっぱりミリアは強いなって、改めて確認できてよかった」
 ウォリーは嬉しそうに語る。
「そうだよ! ミリアは強いんだよ! 姑息な手を使わなくてもさ、正々堂々と戦えば僕なんてとても敵わない」
 彼女はウォリーに向けていた模擬刀をゆっくりと下ろした。
「周りの人が何と言おうと、僕はミリアの強さを知ってるから。君がいつも努力してたこと知ってるから。そんな君に憧れて、今まで頑張ってこれたんだよ」
 ウォリーが彼女の肩に手を置いて言う。
「ギルドは追放になっちゃったけど、君ならきっとどこででも上手くやっていける! だから、今度は卑怯な手は使わず正々堂々と戦ってほしい。僕が憧れていた、あの頃のミリアのままでいてほしい」
 彼女は話を聞きながら大きく俯いた。ウォリーの目から彼女の表情は見えない。
「そうね……わかった……」
 俯いたまま彼女は小さくそう言う。
 その言葉にウォリーは安堵する。自分の想いが彼女に伝わったのだと。しかし……。
「なんて言うと思ったかバァカ!!」
 ミリアは邪悪に笑ってそう叫ぶと、彼を突き飛ばした。
「ふん、私を追放させたからって、調子に乗ってんでしょ? 言っておくけどね、あんなことまったく悔しくなんてないんだから!」
 彼女は模擬刀を地面に叩きつける。
「あの程度で私が潰れるとでも思ったか! 正々堂々? 冗談じゃない! 私はどんな手を使ってものし上がってやる! そして次こそあんたを地に落としてやるよ。覚悟してろ!」
 そう言い放ち、彼女はウォリーに背を向け、街の外へ向かって速足で歩いていく。
 背筋を伸ばして歩くその姿からは、数時間前の落ち込んで引退さえ考えていた弱々しい様子は消えていた。
 ウォリーは立ち尽くして去っていくミリアを見つめている。
 その時、彼の頭にメッセージが鳴った。

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